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そんな中で異色とも言える二人組の男が歩いてきた。日曜日の昼間の公園に男二人だけで来る事自体も珍しいが、それよりも珍しいことがあった。その二人組の男は腕を組んでいたのだった。右側のサングラスをかけた男がもう一人の男の腕に自らの腕を通し、そうする事がさも当たり前かのように人目を気にする事なく歩いてきた。ゲイのカップルか?と思った伊波であったが、その考えはすぐさま払拭された。そのサングラスの男の左手には白杖が握られていた。彼は視覚障害者であり、支えとして隣の男と腕を組んでいたのである。サングラスも視覚障害ゆえのものだろう。
彼らは一言二言、言葉を交わし伊波の方へ向かって行った。正確に言うと、伊波の座るベンチの右隣にあるもう一つのベンチに向かって。
背が高く人当たりの良さそうな雰囲気のあるサポート役の男が、対照的に背の低いサングラスの男の肩を持ちベンチに座らせ、その後自らも彼の右隣に座った。サングラスの男は白杖を自分の座るベンチの左に立て掛けた。
伊波はその様子を横目に見ていたが、意識は全て昨日と今日の出来事に向いていた。昨日の夜、突然芽吹いた苦悩は、今日の朝つまり伊波が公園に来る直前に一旦の区切りをみたが、それで一度芽吹いた苦悩が枯れることはなく、むしろ悠々と枝を伸ばし彼の心を苛んでいた。
これからどうしようか、と伊波が考えていると、カランと音を立てて白い棒状の物が転がってきた。それはサングラスの男が持っていた白杖で、ベンチに立て掛けていたのが滑って転げ落ちたようだった。
その白杖は藁をも掴む思いの伊波にとっての『藁』であり、また地獄にいる伊波にとっての『蜘蛛の糸』でもあったが、その時の彼は知る由もなく、拾い上げ手渡そうと伊波は腰を上げた。
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