第1章

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振り返るとマスターは優しい笑顔を見せた。そして、次の瞬間…彼女は俺達の方を見た。片岡さんも彼女の方を見た。 見つめ合ったまま時が止まる。 彼女の頬を一筋の涙が伝った。吸い寄せられるように片岡さんは彼女の傍に行く。久しぶりだね。そう言うと彼女の涙を親指で拭った…。まるでドラマのワンシーンでも見ているかのようだ。 片岡さんと彼女は遠回りをしてやっと想いが実った。片岡さんも仕事先の娘さんに一目惚れして片想いをこじらせていたそうだ。片岡さんは独身だし、彼女が見た指輪は、その頃しつこい女がいて女避けの為だったと誤解が解けた。 凄い場面に立ち合ってしまった。小さな声で片岡さんにあのプラグのせいですよねと言ったら、何言ってんだみたいな顔をされた。えっ…あの壁を見たよな?と確認したら、あのレンガの壁がどうかしたのかと更に不思議な顔をされた…。 は? どういう事だ? 片岡さんには見えてない…マジか…。 少し鼓動が早くなった。でも…俺は見た。 片岡さんと彼女がすれ違ったのは…もしかしなくても…あのプラグ、引き抜いたよな…そして別の場所に差し込んだ…。もしそうなら…やらかしたよな…。 隣で片岡さんと彼女は会えなかった時間を埋めるように話をしている。 このbarが…噂の…いやいや… グラスに口をつけながらチラッとマスターを見る。バチっと目があって固まった。マスターは俺に爽やかな笑顔を見せるとパチッとウインクをした…。 マ…マジかっ!! 完。
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