開かないはずの時計塔

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開かないはずの時計塔

今日はどうしようか。 文学部は今日作品の批評会をやるそうでいつものように文学室で暇をつぶすわけにはいかない。 けれど親といたくないので家には帰りたくもない。 図書室はあれ以来行きたくない。 私は何のあてもなく広い校内を歩きまわっていた。蝶々を見つけて右に行き、知り合いを見つけては左に行き。 何の目的もなくただただ歩き回るだけ。 まるで…………。 気が付くと私は時計塔の前に来ていた。 文字盤の正面、コンクリートの上。 おそらくは五十年前、降池夕子が命を散らした場所。 時計塔からの重力は少女の肉体だけでなくその精神までもを壊したのだろうか。 それとも何らかの怨念のためにいまだ生きているのか。 この学校の永遠の生徒として。 きぃ、ときしむ音がした。 扉が開いている。 時計塔の、開かないはずの扉。 その扉がひとりでに開いていた。 私は恐怖で動けない。 脳が正常に作動せず先ほどまでうるさかった運動部の掛け声も聞こえてこない。 ただきぃきぃと扉が私を招く音が頭に木霊するだけ。 恐怖で暴れる心臓に固まる感情。 その時扉の向こうから少女が現れた。 いわずもがな降池夕子だ。 彼女は吹けば消えてしまいそうにされど当然のようにそこにいた。 私は思いがけず訊いてしまう。 「あなたはなぜ生きてるの?」 彼女は眼をそらせながら少し首を傾げ、あいまいに微笑んで答える。 「 幸せになりたいから、かな。 」 それは、精神が生きている、答えだ。
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