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『彼女』を再び運命に縛りつけてしまったのは、他ならぬ『僕自身』だったのだ!
『知らなかった』とは言え、その『罪』はあまりに重く、あまりにも辛く‥‥
彼女が、握った手を離した。
「来てくれてありがとう。これでスッキリしたわ。じゃ‥‥私はこれで」
幹夫が顔を上げた瞬間、3尺玉の大きな菊花が夜空を明るく照らした。
そのとき、その女性の顔がハッキリと見えた。
「何処かで見覚えのある顔だ」幹夫は記憶の糸を手繰る。
‥‥それは、幹夫が清美を担ぎ込んだ時に清美を診てくれた看護師だった。
思わず言葉に詰まる幹夫を振り返ることもなく、彼女はそのまま夜の静寂へと溶けて行った。
「古い記憶は無くなっていく」彼女はそう言っていた。
現に『約束』の記憶は曖昧だった。
そうして、何れは幹夫に関する記憶も薄れて無くなって行くのだろう。
彼女には新しい暮らしが待っているのだ。幹夫に、それを干渉する権利なぞあろう筈もなかった。
彼女が去った後、幹夫はその場に立ちすくんで動けなかった。
そして後には。
大輪の花で夜空を彩る花火の輝きと轟音‥‥それに大勢の歓声が、あたかも此の儚い一瞬が永遠に続く事を願うかのように何時までも何時までも‥‥
終
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