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色々と思考を巡らした結果、幹夫はこう考えることにした。
男は「これ以上、近づくな」と言った。
であれば「これ以上、距離を縮め無ければ良い」のだ、と。つまり現状維持である。『日和った』と言えばそうかも知れない。
着かず離れず、現状の距離感を保ったまま様子を見ることにしよう。
まぁ心配しなくとも今の感じであるならば、突然に二人の距離が急接近する可能性も低いであろうし。ならば問題もあるまい。
ところが、幹夫の安易な目論見は、あっさりと崩れ落ちることになった。
それは、中折帽の男と出会った2日後の事だった。
幹夫が講義を終えて帰ろうした時、背後から肩をポンポンと叩く者がいる。
誰だ?
ふと、振り返ると。そこに居たのは『あの』清美だった。
「うわっ!」
幹夫がびっくりしたのを見て、清美が少し焦った顔を‥‥しているのだと思う。何しろ、相変わらずのマスクに黒メガネだから良く分からないのだ。
「ご‥‥ごめんね、脅かしちゃったかな‥‥」
「え!いやいや、だ、大丈夫だよ。ゴメンね。少し考え事をしてたもんだから‥‥ははは」
幹夫が慌てて取り繕う。
いや、とりあえず『距離が縮まることさえ無ければ、それで良い』のだ。
「そう。ならいいけど‥‥少し、いいかな?」
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