逢瀬を約して焦がれるは

3/4
16人が本棚に入れています
本棚に追加
/52ページ
「え?‥‥あぁ、いいけど‥‥」 マズイぞ。雲行きが怪しい。 幹夫は少し恥ずかしそうな彼女の口調に気配を感じていた。 「あの‥‥今度の24日だけど。もしも時間があったら、ご飯でも一緒にどうかな‥‥て」 「えっ‥‥!」 幹夫は言葉を失った。いや、それはマズんいだって! 「あのね、ホラ、いつもチェインを利用して貰ってるじゃない?だからその、あの、感謝の気持ちってほどでも無いんだけど‥‥あっ、マスターも『お客が増えた』って喜んでるし、何かお返しとかしたくて‥‥ダメかな?あ、あの、時間が無ければ良いんだけど‥‥」 人間に本音と建前があるとしたら、この場合『お礼』が建前で『デートの誘い』が本音という位置づけであろうと思う。 これだけ辿々しい誘い文句の影に『恐ろしい罠』が控えているとは到底思えない。 もしも『それ』なら逆にもっと流暢になるだろう。それが返って、幹夫を安心させたと言える。 「24日だね?う、うん、OKだよ。ど、何処に行く?」 幹夫は必死な作り笑顔で清美に答える。 「良かった!」 溢れんばかりに彼女の笑顔が弾ける。 「あのね、港の方に大好きなお店があるの!そこで良ければ」 「分かったよ。うん、楽しみにしてる」     
/52ページ

最初のコメントを投稿しよう!