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あの、最初にチェインで見たぶっきら棒でキツい顔に戻っていた。
「‥‥あの‥‥知ってる人?」
おずおずと、幹夫が小声で清美に尋ねる。
彼女は少し間を置いてから、ハッキリとした口調で答えた。
「ん、私の‥‥『お父さん』」
「ええっ!」
驚いて聞き返そうとする幹夫を、中折帽の男が激高して遮る。
「黙れっ!‥‥お前に父親呼ばわりされる筋合いは無いっ!」
これはいったい、何がどうなっているんだ?
事態が飲み込めず、幹夫が混乱する中、中折帽の『父親』は尚も怒りを隠せないようだった。
「ワシはお前に言ったよな‥‥?『約束』を破れば只では置かない、と」
「‥‥。」
彼女は悲しげな顔をしていたが、何も反論しなかった。
そして何も言わずに踵を返すと、そのまま幹夫を置いて足早にその場を去って行った。
中折帽の男はそれを見届けると、そのまま帰路に着こうと歩き出した。
「待ってください!」
幹夫の声に、中折帽の男が足を止めて振り返った。
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