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どういう事情か判然としないが、とりあえず彼女はこの男に見つかりたく無かったと。そのために顔を隠そうとしていたのでは無いか。
貨物船の汽笛が遠くに響いている。
「‥‥聞きたいか?清美‥‥いや、『あの女』のことを、だ」
男が横目でジロリ、と幹夫を睨む。それは『覚悟はあるのか?』という問いかけに感じられた。
「はい‥‥」
幹夫は意を決する。
何も知らずに彼女の元を去るのは簡単だろう。
以前と違って今回は『理由』が出来たのだし。だが、と幹夫は思う。
彼女の最後の包容には、何らかのメッセージがあったように思えてならない。それが何なのか、幹夫は知りたいと思った。せめて同じ土俵に立って、それから考えられれば。
「‥‥あれの母親は早くに死んでね‥‥私は清美と二人で暮らしをしていたんだよ。こう見えて私は警察官でね。それがために生活が不規則で‥‥清美には寂しい思いをさせたと思ってるよ」
男は独り言のように呟やいている。
「清美に『病気』が見つかったのは3年前だ。発見が遅れて‥‥清美はワシに気を遣って黙っていたんだ。それが災いしてな‥‥医師に見せたときには『手遅れ』と宣告されたよ。もって、1ヶ月と」
え‥‥?と幹夫が絶句する。では、最前まで『そこ』にいた『清美』は?
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