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「最初に『あの女』と出会った時、『あの女』は清美が入院していた病院の担当看護師だったんだよ。‥‥何を言ってるのか分からないだろうが、事実なんだ」
当然、幹夫には何が何だか理解出来ない。
だが、さきほどの彼女の異様なまでの低体温を説明するには、他に理解できない『何か』があっても不思議はなかった。
「‥‥病院に担ぎ込まれた当時、清美はほとんど意識も無い状態でね‥‥ワシもどうして良いか分からず、右往左往の日々だったよ。余程疲れていたんだろうなぁ‥‥何しろ病室に警察手帳を忘れたこともあったほどだ」
男はコートのポケットから煙草を取り出して、口に咥えた。
「‥‥独り身になって、良かった事がひとつだけある。家に居て煙草に文句を言われなくなったからな‥‥」
スッー‥‥と男が煙を吐き出す。
「そんな時だよ、病院の中で突然死の騒ぎがあったのは。件の看護師が病院の廊下で倒れていたんだ。‥‥あとで聞いたら急性心不全だとさ。
君は知らんだろうが、ワシら警察の中で『急性心不全』というのは『原因不明の突然死』を意味しているんだ。『原因が見当たらない』というヤツだな‥‥」
訥々ではあるものの、それまでの秘密主義が嘘のように男は語り続けている。もしかすると、男も誰かに聞いて貰いたかったのかも知れない。不器用なだけ、で。
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