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自らが何者であるかをも知らずして
帰り道、幹夫の足は重たかった。
来る途中はデートの緊張で逃げ出したいくらいの気分だったが、今は家路につくのがイヤになるくらいだ。
『清美』の父親は彼女を『魔女』と称した。
だがそれは彼女を形容するに適切と言える言葉なのだろうか。
これまでの彼女の言動を見るに、幹夫にはそれが正しいとは思えなかった。
別に、あの父親に悪意があるとも思えない。
多分彼は本当に幹夫の事を心配しているのだと思う。『再び、身体の乗っ取りを起こすのではないか』と。
だが、彼女はあの時確かに言った。
「夏まで生きられないかも知れない」と。
その言葉を真に受けるのであれば、彼女は『次』を企んでいるワケでは無いように思える。
仮に幹夫を『次の依代』と考えているのだとすれば、どんな方法を使うのか知らないが、そんな事を言わずに隙を見て乗っ取れば済む話ではないか。
いったい、彼女に何があるんだろうか。
どんな想いで幹夫に『異常な低体温』を教えようとしたのか。混乱するばかりだった。
幹夫は来た道を逆に辿って近くの地下鉄駅にやってきた。
そしてキップを買ってホームに入る。遅い時間帯だ。次の電車まで、まだ時間がある。
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