自らが何者であるかをも知らずして

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とぼとぼとホームを歩く幹夫の眼に、ホームの椅子にひとりポツンと座る女性の姿が写った。 そう、彼女だった。 とっくに帰ったと思っていた彼女だが、ホームに座ったままじっとしていたのだ。コートこそ着ているが、その姿に黒メガネとマスクはない。 「‥‥。」 彼女は線路の方を向いて黙ったまま下を見ているが、ホームに幹夫がやって来たのを察してるのであろう。じっと、座ったままだ。 幹夫は意を決して、彼女のもとに向かった。そして、何事でもないように隣に腰掛けた。 「‥‥。」 幹夫もまた、何も掛けてやれる言葉が無かった。 口を切ったのは、彼女の方だった。 「‥‥どうして?」 相変わらず目線はこちらを向かず、下を向いたままだ。 「え?」 幹夫が短く聞き返す。 「‥‥『お父さん』と話をしたんでしょ?ゴメン、見てた。聞いたんでしょ?私の事。だったら、何故此処に来たの?無視してくれて‥‥良かったのに」 『無視すれば』というセリフに合わない、最後は消え入りそうな声だった。 逆方向のホームに、電車が入ってくる。 「うん‥‥自分でも良く分からない。何故か知らないけど『此処に来なくちゃ』って思ったんだ」 「そう‥‥馬鹿ね、アナタって。聞いたでしょ、私は『魔女』なのよ?そんなのの横に居ていいの?」 彼女が自虐的な口調で尋ねる。     
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