自らが何者であるかをも知らずして

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「それは分かんないけど‥‥でも、少なくとも『あなた』は僕に『そういう目的』で近づいたワケでは無いと思ったんだ。何となくね。何か別に理由があったんじゃないかって。そう思うんだ」 「ん‥‥」 肯定でも否定でもない、彼女の返事は曖昧だった。 「‥‥馬鹿ね。ホント、馬鹿‥‥」 彼女は(うつむ)いている。泣いてるのかも知れない。 多分、彼女は僅かな期待に賭けていたのであろう。 幹夫が全てを知って、それでも自分の所に来てくれるのではと。 普通に考えれば、それは全く有り得ない事だ。 何しろ、自分の眼の前にいるのは『清美』の姿こそしているが『何者』どころか生き物として有り得ない『化物』なのだから。 更には自分が『乗っ取られて』殺されてしまうかも知れない。それを知ってなお、彼女の元に幹夫がやってくる確率は、ほぼゼロとするのが妥当であろう。 「話は‥‥あの‥‥お父さん?から聞いたよ。元は看護師だったって?」 幹夫が話を振る。 何かこう、雰囲気を変えるキッカケが欲しかった。 「ん‥‥そうね。『ひとつ前』はそうだったわ‥‥」 手で顔を拭うような仕草をして、彼女が顔を上げる。 ただ、それでも幹夫の方を向こうとはしない。 「『私』‥‥はね、正直に言うと『私自身』が何者なのか、自分でも分からないの。 何しろ自分以外に『こういう人』に出会った事が無いから。多分『こんなの』は世界に私一人だけなのだと思うわ」     
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