自らが何者であるかをも知らずして

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それは、想像を絶する孤独に違いない。 自分以外に仲間と思える者が居ないのだ。この広い世界に、ただの一人も。 自分が何者であるのかを告白したり悟られたりすれば、その瞬間に自分の命運は尽きてしまう。『害虫』や『害獣』の一種として乗り移る前に殺されるのがオチだ。そう、相手がよほどの馬鹿でもなければ‥‥だ。 そのため、彼女は常に自分を偽りながら生きるしか方法が無い。 それが逆に、自分の心に深い孤独を生むことになってしまう。その深さは、常人に察する事が出来る範囲を超えているに違いない。 「『私』はね。‥‥他人に乗り移ると、最初は『以前の私』の記憶・人格が前に出てくるの。だからどうしても記憶の混乱が起きて‥‥暫くは記憶と人格の整理が大変なのよ。 それが時間が経つにつれ、徐々に『乗り移った側』の記憶とか人格と融合されていき‥‥最終的には『以前の私』の人格や記憶は薄れて、最後には完全に失われてしまうのよ。 だから、今はもう『看護師だった私』の記憶はほとんど残っていないわ。‥‥自分の名前すら、出てこないほどに。だから‥‥聞かれても分からないの。ゴメンね」 幹夫には返す言葉も無かった。     
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