例え今日が『終わりの日』であろうとも

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それは年末最後の日だった。 幹夫がそろそろ帰ろうかと時計を見た時である。珍しく彼女が自席を離れ、幹夫のところにやって来たのだ。 「ん‥‥明日、時間無い?あまり早い時間とかは苦手だけど」 多少、口調はぶっきら棒ではあるが、それでも店で彼女の私語を聞くのは初めてだった。 「あ‥‥ああ、いいけど‥‥」 そう、よく考えてみれば明日は元旦だった。初詣に出かけようという相談である。そして、これが2回目のデートでもあった。 「じゃぁ‥‥明日。ここの前で待ってる」 彼女はそう言い残してレジに向かった。 次の日。 元々夜学の彼女は夜が遅くて、朝もそれほど早くは起きないそうだ。代謝をギリギリに抑えるために、睡眠時間も出来る限り長く取っていると言っていた。 そのため、集合時間は昼過ぎ‥‥というより、もはや夕方に近かった。 冬の夕暮れは日の入りが早い。だだでさえ分厚い曇天の空はすでに薄ぼんやりと暗く成りかけている。 初詣とは言っても、夕方の神社に人は(まば)らだった。縁日の屋台も、そろそろ今日の撤収を始めているところが多い。 そんな中、ふたりは無言のまま参拝の途についていた。 気のせいか、彼女の足取りがいつもより遅い気がする。それに口数も少ない。     
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