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「言ってたんだ!『清美さんは素敵な人とデートがしたかったと"言っていた"』って!」
そこまで言って、幹夫はハア‥ハア‥と息継ぎをして呼吸を整える。
「‥‥それが、どうしたと?」
「彼女は国文科なんだ!一人称と二人称がいい加減なことはないっ!『彼女』は‥‥『清美』さんに乗り移る前に、清美さんと話をしているんだ!
多分‥‥何かの拍子で一時的に意識が戻ったんだと思う‥‥その時、恐らく彼女は清美さんに提案をしたんだ‥‥『自分が乗り移ることで、望みを叶えよう』と‥‥
『彼女』はアナタの言うように『乗っ取った』んじゃぁ無いっ!逆なんだ!清美さんの身体を『受け入れた』んだ!‥‥看護師だった自分の身体に残っていたハズの寿命を犠牲にしてまで‥‥」
あの人は‥‥そう、『彼女』の人格はそういう人なのだ。
決して普通の人間ではないが、それでもきっと、誰よりも人間らしくて‥‥
「‥‥。」
電話口の向こう側は、少しの間だけ無言だった。
確かに。
看護師として充分な寿命を持っていたはずの『彼女』に、今にも消え入りそうな寿命しかない清美の身体を乗っ取るメリットは何も無いのだ。それは、清美の父親自身にも分かっていた事だ。
電話の向こうから絞り出すような声がする。
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