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「‥‥仮に、だ。仮に君の言うように『それ』が清美の望みだったとしよう‥‥だが、それでも『あれ』は肉体こそ清美であろうとも精神は『あの女』なんだ!『あれ』は私の娘ではない‥‥」
「違うっ!」
幹夫の大声が再び、待合室に響く。
「彼女は言ってたんだ!『乗り移って時間が経つと、乗り移った相手の人格に置き換って行く』って。乗り移って3年‥‥今の彼女はもう、ほとんど『清美さん』なんだ!アナタの娘さんなんですよ!」
「何故そう言い切れる!証拠でもあるのか!」
思えば、それは警察官らしい男の物言いなのかも知れない。
「あるっ!」
幹夫は断言した。
「よく考えてみてください!アナタには何か物を考えながら喋る時、語頭に「ん‥‥」と詰まる口癖があるでしょう!僕も聞いてて覚えます!」
「確かに‥‥それはあるが‥‥」
「それは、元気だった頃の清美さんにもあったはずです!違いますか!?」
清美の父親は、しばらく思い返していたようだったが「そう言えば‥‥あったな」と小さく答えた。
「人は、尊敬する人の習慣を無意識に真似る事があります‥‥清美さんは、尊敬する父親であるアナタの口癖を無意識に真似ていたんだと思います。
そして、それは今の『彼女』の口癖でもあるんですっ‥‥それこそが、今の彼女の精神が『清美さん』であることの『証拠』です!」
「‥‥。」
電話口からは、何の反応もなかった。
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