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「今‥‥彼女の大半は『清美さん』なんです‥‥しかし、乗り移っていることがバレたために父親であるアナタに『娘』として認めて貰えなくってしまった‥‥でもっ!それでも彼女はアナタの事を『お父さん』と呼んでいたんです!アナタを父親として認識しているんだ!‥‥その孤独がどれほど辛かったか‥‥」
幹夫は溢れ出る涙を抑えきれなかった。
「だから‥‥だから‥‥ですから、お願いです。せめて最後だけでも。彼女に『お前は自分の娘だ』と‥‥認めてあげてくれませんか!どうか‥‥どうか‥‥」
だが、受話器の向こうから聞こえてきたのはツー‥ツー‥という通話終了の音だけだった。
「くっ‥‥!」
無力感に苛まれながら、幹夫が待合室を後にする。
そして、集中治療室の外の椅子に深く腰掛けた。
刻々と時間だけが無情に過ぎていく。幹夫には黙ってそれを見ているしか手が無かった。
そして。
幹夫の前に、医師が現れた。
「‥‥ご臨終です。手は尽くしましたが‥‥これが最期かと」
「そうですか‥‥」
ゆっくりと立ち上がろうとした幹夫の前に、誰かが立ちふさがった。
ハッとして幹夫が前を見る。
「‥‥遅くなって済まなかったな」
清美の父親であった。
よほど急いできたのか、コートも無ければ帽子も被っていなかった。
「‥‥来てくれたんですね‥‥」
「面倒を掛けた。色々と気を遣ってくれて申し訳ないと思う」
清美の父親はそう言って幹夫に深く頭を下げた。
「いえ‥‥それよりも‥‥」
入室を促そうとする幹夫を、清美の父親が手で制した。
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