16人が本棚に入れています
本棚に追加
だが、そうして最期の瞬間に立ち会っていない以上、こうしてフラフラと街中を歩いていると何処かでヒョイと顔を合わせそうな気がしてならない。何だか実感が無いのだ。
日頃も歩いて居る時に黒メガネと白マスクの女性を見かけると、思わず「彼女ではないか」と眼が行ってしまう。
思えば、彼女が『清美』になってから、彼女は清美の『想い』を実現することに専念していたと思う。勉強にしろ、恋愛にしろ。
「次はない」と彼女が言っていたのも、彼女自身の想いとか清美の父親に脅されていたという理由ではなく、もしかすると清美の父親から「次はやるな」と言われた想いを実現したかったからかも知れないと思う。もしかすると、だが。
では、彼女自身はどうだったんだろう‥‥と幹夫は想いを馳せる。
彼女自身は何かこの世に未練は無かったのだろうか。
ドドン!
大きな音がして、夜空に尺玉が上がり始める。花火大会も中盤に差し掛かった合図だ。
ごった返す観衆から一斉に、わぁっと歓声が上がる。
空に輝く花の明かりが、幹夫の足元をぼんやりと照らす。
別に彼女と何の約束を交わしたわけでもなかった。ただ「ここは花火がキレイだ」と話したに過ぎない。
だが、彼女は「それまで持たない」と行って悲しそうな顔をしていた。
もしも彼女に、彼女自身に『この世の心残り』があるとしたら。それはこれくらいなのかも知れない。
最初のコメントを投稿しよう!