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何かの拍子に、幹夫の左手が女性の右手の指へ触れた。
ひんやりと冷たい感触が幹夫に伝わる。身に覚えがある、あの感触‥‥
思い切って、幹夫は女性の手を握ってみた。いくら何でも他人だったら、すぐに振りほどこうとするだろう。
だが、その意に反して女性の右手は‥‥幹夫の左手を優しく握り返してきたのだった。
『彼女』だ‥‥
その瞬間、幹夫は確信した。
何時の間にか幹夫の足は止まって、その場に立ち尽くした。
その女性もそれに呼応するように、その場で立ち止まっている。もう、間違いが無かった。あれからどうしたのか見当も付かないが、兎に角『彼女』は『次』に乗り替わったのだ!
何と言えば良いんだ‥‥
幹夫には言葉が出なかった。
「良かったね」とでも言えば良いのか?いや、それは違うだろう。その『代償』として、彼女は誰かの生命を奪っているのだから。
‥‥もう‥‥充分だ‥‥
幹夫は黙って女性の手を強く握る。
もしも願うことならば、だ。
勝手を言うようではあるが、出来ることなら「このまま何も言わずに去って欲しい」と。
そうすれば、幹夫自身も『何かの間違い』で事を収めるられると言うものだ。
『彼女』は何処かで生きている。それだけで充分だった。もう、それ以上を望む事は考えられなかった。
ドドォォォン!
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