背負し過去の辛き事をば

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背負し過去の辛き事をば

中折帽の男は、幹夫の呼びかけに足を止めた。 「あの‥‥聞きたい事が‥‥」 「ワシは言ったな?『これ以上『あの女』に近づくな』と。何故それを守れん?そんな事では君は本当に死ぬぞ。これは脅しでも何でないんだ!」 男は幹夫の質問を遮るようにそう言うと、再び歩きだそうとする。 「待って下さい!聞きたい事がっ!」 幹夫が男の前に立ち塞がる。 「‥‥。」 男は何も言わない。 「あの‥‥」 何から聞いて良いかすら分からない。だが、このままこの男を返すわけには行かないと幹夫は思った。 「あの‥‥どうして此処が分かったんですか?‥‥偶然とかじゃないですよね?アナタはこの時間、此処に彼女が現れるのを知っていたんですよね?」 男は暫く黙ったままだったが海の方に向き直ると、ポツリと呟いた。 「‥‥まぁ‥‥今日はクリスマスだからな。何かイベントがあってもおかしくないだろうし。それに‥‥そこの店は『清美』のお気に入りだったんだよ」 『推測』が当たったという事だ。 それを聞いてなるほど、と幹夫はひとつ合点が行く事があった。 彼女のあの『野暮ったい服装』は、この『父親』の眼を掻い潜るためのものであったに違いない。     
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