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 トイレへと向かったサキちゃんを見送ると、アキラはブランケットを準備しようと立ち上がった。夏なので寒いということもないだろうが、エアコンで風邪をひかれても困るだろう。  狭い空間に寝転がる友人たちをまたいでクローゼットへと向かう。途中、床に散らばっていたのだろうナッツの欠片が裸足の裏についてアキラは眉をしかめる。 「痛っ」  でもそれも一瞬だ。振り払ったナッツはまた床に転がってどこかへ行ってしまう。  胸の痛みもこんな風に簡単に振り払えたらいいのにと、アキラは自嘲して小さく笑った。  正直もう、胸の痛みはそんなにアキラを悩ませたりはしない。一番難しい嘘を、一番最初についているから。  決して届かぬ恋心。一番奥に隠してあるそれを、アキラは今日も些細な嘘で空気中に溶かし込み隠す。小悪魔に魅了されて現れるかもしれないその雫は、いつか彼女の口元に触れられることを夢を見て(くう)に漂っていた。
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