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陽気なやつら
「本当についてないわ」
車の中で久我と名乗っていた女がつぶやいた。
「いやーまさかお金を盗もうとしていた銀行に銀行強盗が入るとはねぇ。千夜さんの運の悪さには感服するよ」
「書類偽装して、支店長と部下に成り代わるまでは計画通りだったんだけどなー。金庫の暗証番号までは調べてたから後は、金庫の鍵を手に入れるタイミングだけだったのに」
はぁと大きなため息を吐く。
「マジで!? あんたら偽物だったん? 分からんかったわー」
げらげらと後部座席で佐藤が言う。
「そもそもあんた達が今日銀行強盗するからこんな面倒な事になったんだから」
「何で俺たちを助けた」
酒井もとい板倉が言う。
「気まぐれ。あと、甘いもの好きに悪い奴はいないから」
不機嫌そうな顔で千夜が言う。
「仏頂面も可愛らしいですねぇ」
「可愛らしいっていうな。俊幸」
「そんなに顔とスタイルのギャップ気にしているんですか。僕は好きですけどねぇ」
「うるさい」
がたんっと車が揺れる路上に落ちていた石でも踏んだらしい。トランクに乗っているケースの蓋が開いて札束が落ちる。
「あ、馬鹿。お金落ちたじゃないのちゃんと運転して」
「へーい」
「これ、本物なのか?」
「そうよ。ひとつはダミーだけどもう一つは本物が入れてある。あと、そこから一千万はあなたたちにあげるわ」
ぱたぱたと手を振りながら適当に千夜が言う。
「何を考えてる……」
「別に。それで借金返せば銀行強盗なんてしなくていいんでしょ」
板倉は怪訝な顔を千夜と俊幸に向けている。
「何となくよ。何となく。あんた達の事気に入ったからよ。それで納得できないなら。これから何かあった時に手伝ってよ。腕っぷしは強いみたいだし」
まだ、納得はいっていない板倉だったが、目の前の現金を突き返せるほどの余裕はないのも事実だった。
「ところで、佐藤君の本名はなんていうのかなぁ」
俊幸がのんびりとした口調で聞く。がたんとまた車が揺れた。
「佐藤の本名は佐藤だよ。こいつを偽名で呼んでも反応しない可能性があったからな」
板倉が頭を抱えながら言う。
「そうだなー。俺頭良くないし」
「あっはっはっはっはっはっは」
千夜が機嫌よく笑う。
「このお金の借りは必ず返す」
板倉が宣言するように言う。
「いいよ。貸したつもりもないし」
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