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「ふうりん草」
「風鈴草はね。とっても可愛い、小さな紅い花をつけるのさ。その形が風鈴に似てるからそう呼ばれるんだってね」
あなたと私は高原にいた。
夏の風が吹きぬけてゆく。
乾いた、気持ち良い夏の風。
二人で揺れてみる。
ゆらゆら、ゆらゆら。
私は心のままに。でもあなたはどこかぎこちない様子。
私は一輪の風鈴草――
あなたの口唇が私を愛でる。
「ぼくは好きだなぁ、風鈴草。風に揺らぐと女の人が華奢な小首を振ってるみたいでさ……どこかすぐにでも折れそうな儚さが……」
言いさし、あなたが近づいてきた。
真剣な眼。口元には笑み。
笑顔を返そうとする私に、
あなたの手が伸びてきた。
私の首を包んだそれは、金輪際離れない首輪のよう――
輪はみるみる狭まってゆく。
ああ、そうか。
私は今日ここで、死ぬのか……
でも、思ってたより怖く……ない……
どうしてだろう。
首輪を圧しつけながら、あなたはどこかさびしそう――
そんな顔しないで。
そんな顔をしてもらう価値なんて、私には――
首輪はさらに狭まった。
二人の視線が重なり、あなたの手が瞬間止まる。
私は眼を閉じる。
どうかお気になさらずに……
あなたがなさりたいように……
そうして風鈴草は手折られた。
泣きさけぶ、あなたのことなど知らぬまま。
私は一輪の風鈴草――
<了>
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