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たぶん、かって子供が欲しかったけど、出来なかったんだろうと想像した。
または結婚して子供が欲しかったけど、独身のまま年を取り、赤ん坊が欲しかった願いの気持ちだけが残ってしまったんじゃないか。
もしくは育児がずっと昔に終わって、前はあんなに可愛がって育てた子供たちが、もう自分の言うことを聞かなくなり、自分から離れてしまって寂しくなり、それでかっての良き日を孤独に思い出して、人形の赤ん坊をあやしているのかもしれない。
または、これは悪い想像だが、愛していた自分の赤ん坊を死なせてしまったトラウマが未だに胸に残ってしまっているか、せっかくの子宝を過去に死産させてしまったのではないかとも想像した。
その寂しさの気配を前に、この老婆が気が狂っているなどという嘲りの気持ちなどまるで持てなかった。
ホラーなんかには、たまに狂った母親が人形の赤ん坊をあやしながら奇異な笑みを浮かべて人前に登場するシーンがよく出てくるが、この老婆は、そんな狂った母親とは明らかに違っていた。
勿論心の中に抱えているものは、同じ悲しみや辛さなのだろう。
きっとそうだろう。
しかしこの老婆はわかっているのだ。
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