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ベイビイ・ドール
町にあるダイナーで、ヴィールマルサラのランチを食べた後、コーヒーを飲んでいた時だった。
とある老婆がダイナーに入ってきた。
どうやら赤ん坊を抱えているようで、ずっと老婆はその赤ん坊をあやしていたが、時たま聞こえてくる赤ん坊の声が妙に機械音ぽいのが気になった。
そこでチラッと赤ん坊が入っているバッグを覗いてみると、明らかにそれは人形であった…。
老婆は人形の赤ん坊をあやしていたのだった。
しかし、そこに狂った人間の気配はみじんも感じられなかった。
実際、自分が赤ん坊の方に一瞬でも目を向けると、その老婆はさっと目をそらし、少し遠くの席に移った。
俺がトイレに出向き、偶然、その通り道にある老婆の席の横を通ろうとすると、それまで人形の赤ん坊をあやして楽しそうにしていた老婆は、また人の気配を察知して、すぐに声を潜める。
そして、さらにダイナーの奥の席にまで移り、客が少ないので周りに人がいないその席に座って、そこでまた人形の赤ん坊にずっと話しかけて、あやしていた。
つまり老婆は、自分がしていることが、他人からはどう思われるのかを十分に知っているのである。
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