第二十三章 ウサギの涙 五

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「君を最後に、この楽園を暫し封印しよう。色々、調べられているからね……」  町田の周辺にも、事件マニアがウロつき始めたらしい。 「それに、恋人と暮らしたいしね」  意識が途切れそうになった時に、走って来る足音がしていた。誰が来ているのだろうかと、ぼんやりと考えていると、町田の叫びが聞こえてきた。 「何故、動いている?ここで、ここに、いるのは誰だ?」  誰かが目隠しを取ってくれて、手のバンドを切ってくれた。 「時任さん……」  時任が抱き込んできて、温かいので少し生き返る。時任の肩越しに前を見ると、暗い部屋の中で、彩夢が飛び蹴りしていた。 「そういえば、空手をしていたって聞いたかな……」  彩夢が犯人を殴り飛ばしているのを見てから、部屋を見ると、コンクリートの壁にワイヤーで止められながら、幾体もの遺体があった。  服を着せられ、無表情のままの少女たちは、ガラスの目で宙を見つめている。部屋の中央にはガラスケースがあり、そこには白いワンピースを着た彩夢が眠っていた。彩夢は他の遺体と異なり、肌の色も明るく、頬には紅もあった。マーガレットに囲まれていて、彩夢は今にも起きてきそうな雰囲気であった。 「警察も呼んでいるよ……もう終わりだよ……こんな事して……皆を泣かせて……」  彩夢が泣きながら、町田を傘でも殴っていた。その傘はお気に入りだと聞いたが、そういう使い方でいいのか。 「ごめんな。市来、町田を尾行していたのだけれど、どうしても彩夢が来るって言って、迎えに行ったら、遅れてしまった。怖かったろ……」  時任が抱き上げて、外へと運んでくれた。寒さで足も震えていて、立って歩けなかったのだ。時任は俺を子供のように抱えて、頬を寄せていた。寄せられた頬が温かいが、歯が鳴ってしまっていて上手く会話もできない。  遠くでパトカーのサイレンが鳴っているので、警察に連絡をしたというのは本当だろう。でも、死保が警察に関わってはいけない。 「車を用意しているよ……彩夢、帰るよ!」  誰もいなくなったら、町田が逃げるのではないのか。 「犯人、捕まえないの?」 「それは、死保の現世部隊が来るから平気。俺達は関われない」  死保で、適当に辻褄を合わせてくれるらしい。彩夢が出てくると、半分、消えかかっていた。 「ありがとうございます。成仏できそうです。すごく温かで、優しい光が周囲にあります」
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