第1章

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 そこにいたのは、猫みたいな犬だった。いや正確にいうと頭は猫だけど体はダックスフンドみたいに手足が短い犬だったので私はとても混乱した。 「えっと、君は猫なのか犬なのか」 「元々は、れっきとした犬として生まれました。でも気づくと顔だけ猫になっていました」 「なぜ、顔だけ猫に?」 「実は私、猫になりたかったのです」 「ほほう。なんでまた犬に生まれて来たのにわざわざ猫なんかに」 「それは自分でもわかりません。だけど思い当たる点が一つだけ」  この辺りから猫のような犬の奇妙な身の上話が続いた。 「ある日私は、犬として飼い主と散歩に行きました。歩いて五分ほどのほんの近くの公園までのいつものコースを歩いていた時のこと。真っ黒い猫が突然私たちの前に現れた。ただその後ろ姿が本当に美しくて、ただただみとれてしまった」 「それで私は、いますぐにでも猫になりたいと思ったんだ」 「は?ただ猫の後ろ姿だけで、何でまた猫に?」 「ごめん。自分でもやはりうまく説明ができないようだ。何と言うか、もともと自分は、犬ではないとうすうす感じていて、あの黒い猫を見た時、これになりたいと確信したんだ」     
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