第1章

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 私は、猫のような犬が言っている事がさっぱり分からなかった。困惑する私に目の前の猫のような犬が突然またしゃべりだした。 「そうだ。もっと分かりやすく言うとあれだよ。人間でもほらあるだろ。体は男なのに心は女。またはその逆!」 「なるほど、それはたぶん、性同一性障害ってやつね」私は、この言葉でようやく猫の様な犬が言っている事が分かった気がした。 「ごめん、私はこの言葉を知らない。でも言葉のひびきから、たぶんあっていると思う」 「私は、とにかく体と心が一致しないんだ。犬に生まれたのに猫になりたいなんて誰が思うだろう。でも私は、生まれてからずっと、猫になりたかったんだ。本能的に。そして猫の後ろ姿を見て一気に自分の中の何かがあふれたんだ。心の中に水がぴちょん、ぴちょんと少しずつたまって、ある日突然溢れたんだ」 「で、どうして今はこんな中途半端な姿になってしまったんだい」  私は、この猫のような犬に会ってからずっと抱いていた疑問をやっと聞いた。  私はもっと早く聞きたかったんだけど、どんどんしゃべるので私は口を挟む余地もなかった。 「私は、穴に落ちたんだ。君と同じ様に」  「穴に落ちると、顔が変わるのかい?」 「わからない。でも何かか変わる」
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