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「何かって?」
「君ももうすぐ体験するよ」
私もあの猫のような犬みたいに、何かがかわるのか。
私は、突然穴に落ちた間隔は、鮮明におぼえているけれど、そもそもどうして落ちたのか、全く自分でも思い出せない。あるいは、思い出したくないのか、頭のなかでぐるぐるするばかり。
「じゃあね」ちりんちりんと音をたてながら猫のような犬は、私の前から去って行った。
正確にいうと、ほぼ暗闇なのでどこの方向へ行ったのか分からない。目の前からすっと消えたと言った方が正しいかもしれない。
猫が犬になりたいなんて、考えた事もなかった。生き物はすべて自分の意志とは違うものに生まれてしまう事もあるようだ。
そもそもこの世に生まれてくると言う事はどういう事なのか。どうして人間に生まれたり、猫に生まれたり、犬に生まれたり、どこで生命の分かれ目になっているのかよく分からない。
そしてもっと分からないのは、心と体。心は目に見えないけれど、必ずどこかに存在している。体は、分かりやすい。見たまま存在している。でも、見えない所で心とつながっているようにも見える。
どこからが見えてて、どこから見えなくなるのかさっぱり分からない。自分の体なのに、本当に謎が多いものだ。
「そうだね。本当に謎が多いね」
あれ?また何か声がする。今度はどこから聞こえてくるのか、全く検討もつかない。
「今度は誰?さっきの猫のような犬ですか」
話しかけて見たけれど、全く返事は来ない。
何だろう、訳が分からないまま、私はいつのまにか意識が遠のいてしまった。
「さっき、、久々に人間にあったよ」
「うんうんそれで?」
「何か、穴におちてこっちに来ちまったらしい」
「ほほう」
「たまにいるんだよね。こういう人間。めったに落ちないけれど、やっぱり時々落ちる奴」
「まぬけだね」
「いや、そんなことない」
「いや、まぬけだよ。そんな、滅多に落ちない穴にあえて落ちるなんて」
「違う、きっと何か理由があるんだよ」
「そうかな」
「絶対、そう思う」
「ふうん」
「あの人間の目は、私と同じ目をしていた」
「死んだ魚の目」
「そう。あの死んだ魚の目。死の匂いのするあの目」
気がつくと、私は元の世界に戻っていました。目の前には、三十年以上も住んでいる自分の部屋の風景が広がる。
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