薔薇を摘む私たち

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 真夜中の薔薇園。ここは街灯もなく、辺り一面、平らな闇が広がっているばかりだった。  私は少年たちに合図を出して、一番に壁を登った。外壁から地面に着地すれば、そこはもう薔薇園の中だ。昼間は裕福な人々でにぎわうこの場所も、今は黒一色に塗りつぶされている。いい気味だ、と私は思った。どんなに見た目が美しくても、この真っ暗な世界では、何の意味も持たない。  けれども私は、暗闇の中でも、ほんのわずかに花の香りが感じられることに気づいてしまった。と同時に、ほとんど条件反射のように、私は苛立ちを覚えていた。今すぐにでも、この花たちを引きちぎってしまいたい。思わず駆け出そうとした私を、一人の少年の手が引き留めた。 「先生、少し待ってください。まだ壁を登っている子たちがいます」  少年の冷静な声で、私は我に返った。後ろを振り返れば、やっとの思いで壁をよじ登る少年たちが見える。今日初めてここにやってきた小さな子たちだ。きっと大変だろう。  私は壁の近くに戻り、少年たちに声をかけながら、彼らがこちら側に来るのを待った。
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