疑問

3/6
前へ
/64ページ
次へ
「起きてください。環」 眠い。無理だ。瞼が重い。 いやいやと頭を振ると、頭を撫でられる。 「なんて我儘で可愛い生き物なんでしょう。はぁ…仕事に行きたくないなんて初めて思いました。」 頭の上でぶつぶつ文句を言われ、額にふにっと何かが触れた。 「行ってきます。」 (…いってらっしゃい) 心で呟いて、薄目で見送ると一条は仕事に行った。そして、俺は再び眠る。 お昼すぎ携帯の着信音で目が覚めた。 ディスプレイを見ず寝惚けた頭で電話に出ると、俺はその声に飛び起きた。 「…今、どこにいるんだ環。 環に会いたい。狂いそうだ。 あいつが嫌だって言うなら離婚する。 だから戻ってきてくれ。」 涙混じりの肇だった。しまった。いつもは出ないのに。寝起きで油断した。 動揺して、黙ってしまう。 「環、環、環。 何か言ってくれ… 環がいないと、俺は…」 「…肇、ごめん」 言葉が見つからない。何を今更言えばいい。離婚ってなんだ。俺のせい。駄目だ。俺が他人の幸せを奪ってしまう。 「環…好きだ。戻ってこい。お前が好きなんだ。お前がいなくなって初めて分かったんだ。環がいないと俺は生きていけないんだ」 やめろ。やめろ。やめろ。 「好きだ、環」 「やめろ!!」 電話を切り携帯を壁に投げた。嫌な音がしたがかまってられない。 俺は家を飛び出した。 一人でいたら頭がおかしくなる。 (好きだ、環) 嘘だ。嘘。あいつが俺を好きなわけない。ないものねだりなだけだ。違う。好きじゃない。 無我夢中で走っていて初めて気付いた。 (俺、裸足だ…) 足から血が出ている。 しかも人に見られている。 それを自覚した瞬間、頭が恐怖で埋め尽くされる。知らない人に声をかけられる。怖い。 俺はまた走る。身体が震えても、呼吸がおかしくても。
/64ページ

最初のコメントを投稿しよう!

36人が本棚に入れています
本棚に追加