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さらさらと髪を撫でられる。正直、この心地良さは好きだ。だけど、俺は病院のベッドの上。身体が痛くて動かせない。
なにより、何故また俺は死ねないんだ。もう半分諦めが多い。
「また死ねなかったって思ってるんだろ。いい加減生きてくれ、環」
夏城 環(なつしろ たまき)。29歳。
幼い頃に両親を失くし、その多額な遺産争いのせいで親戚の家をたらい回し。挙句、金が手に入らないとなると捨てられ そんな時に出会ったのがこの男。
「おい。聞いてんのか環。」
「うるせぇ。助けろなんて言った覚えはねぇよ」
高城 肇(たかぎ はじめ)。36歳
公園で野垂れ死にそうな時に拾われ、それから14年。あの時からこいつはいつも俺を助け、傍にいて俺を甘やかす。知らない間に養子縁組もされ、ずっと一緒に暮らしている。
「なんでいつも助ける。俺は死にたいんだ。もう生きたくない。苦しい」
なんで生きなきゃいけない。
なんで楽になったらいけない。
「なぁ、肇。教えてくれよ
俺がこのまま生きてて、楽しいと思えると思うか?」
「環」
「親父もお袋もいなくなって、金に目が眩んだ親戚に家をたらい回しにされ、挙句の果て親戚のおっさんからは何年も犯され、用済みになったら捨てられ」
「やめろ環。その話はするな」
「なんで?俺が可哀想か?惨めか?
そうだよな、最終的には対人恐怖症で家からも出られねぇ。みっともねぇよな」
「違う、環。そうじゃないから」
「何が違うんだよ、事実だろ。俺だってまともに生きて生活してぇよ。だけどそれすら出来ねぇ俺が生きてる意味あるのかよ!」
「俺が、俺が環を救ってやる。あの日お前を拾った時誓ったんだ。俺がお前をずっと救ってやるって。」
「…はっ。嫁が出来て、子供も出来たお前が?
知ってんだよ。お前の嫁が俺を憎んでんのも。この前言いに来たよ。早く消えろってよ。」
「まさか、あいつが…」
「だからお望み通り、養子縁組も破棄したよ。今日から他人だよ、俺達は
長い間、悪かった。お前の人生を無茶苦茶にして。それから、ありがとう。
だから、早く出て言ってくれよ」
肇は、静かに目を伏せ俯いた。
そして肇が伸ばした手を俺は払い除けると肇は静かに病室を出ていった。
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