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「大丈夫ですか!?夏城さん!」
声をかけられ、ぐっと身体を横抱きにされベッドに寝かされる。
急な浮遊感に慌てたが、今は呼吸が苦しくてそれどころではない。
「夏城さん!ゆっくり息をしてください。ゆっくりです。」
「はぁっ、はぁっ…」
「そう、ゆっくり。すぐ治まりますから。」
背中を撫でられ触れられたことに身体が強ばったが、徐々に苦しさが減っていく。
「よかった。落ち着いたみたいで。夏城さんの退院前にもう一度会いたいと思って来たら、夏城さん座り込んでるんですもん。」
「…」
「あぁ、無理に話さなくていいです。無理に何かをするとストレスになり、もっと悪化します」
にこりと笑うこの白衣姿の男は一条 優(いちじょう すぐる)
俺の担当医で、精神科の先生でもある。
何故精神科の先生が飛び降り患者の担当なのかと聞いた所、対人恐怖症の患者でもある俺に興味を持ち自ら担当医を名乗り出たらしい。
「あぁ、手首も傷付けてしまったんですね。治療しないと。」
そしてこの傷だらけの汚い手首に躊躇なく触れる男を、俺は少し怖いと思っていた。
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