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病室はいつも静かだ。廊下にもあまり喋るような人もいなくいつも静かな空間が広がる。
「また、傷が増えそうですね」
「…別に、今更」
そう言って手首の治療をする目の前の男。茶色でふわっとした髪。程よく焼けた肌。鼻は高くまつ毛は長い。175cmある俺よりも10cmは高いだろう身長。
まぁ、どこをどうみても老若男女誰からでもモテる分類だろう。
だけど俺は、この男が、苦手だ。
「夏城さんは綺麗な肌をしてるんだから、大事にしてください」
そうやって簡単に言葉が出るこの男。
綺麗なわけがない。こんな汚い身体。
そんな言葉を口にする目の前の男を俺は警戒する。
「さて、そろそろ送っていきましょう。1人で外はキツいでしょう。さぁ、手をどうぞ」
そう言われ勝手に手を掴まれる。途端に冷や汗が出るが、男はふわりと笑う。
大丈夫。大丈夫。と子供に言い聞かせるように言う男を余所に、ぐっと唇を噛み俯き気味に病室を出た。
久々の外は暑く日差しが強い。
肌を見せたくなくて長袖を着ているが暑くて死にそうだ。
「タクシーを呼びますか?それとも、歩きですか?」
「…歩きで」
「気をつけてください。そして、生きてください」
「…」
生きてください。
この世で1番言われたくない言葉を、この男は平気で口にする。なのにそれに矛盾するかのように男はまた口を開く。
「死にたい時は、僕に会いに来てください。その時は僕が、あなたを楽にしましょう」
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