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「中村さーん」
「え、わ、なに」
思いがけず背後から呼ばれて、コントのようにパイプ椅子からずり落ちた自分。ドアから首だけ伸ばした久保が、しげしげとこちらを見ている。
「中村さんがオーバーリアクションした」
「……悪かったよ」
「貴重な映像っすね」
おかしそうに笑うバイト店員から目を逸らし、慧斗は身体を起こした。
「何?レジ?」
「便所行く間だけお願いします」
「了解」
事務所を出て、レジに入る。店内の客は四、五人で、誰も彼も、通路を巡りながらレジに来そうで来ない。レジの中でやることはないのだが、離れることもできない、一種の膠着状態だ。
慧斗はぼんやりと片手に体重を載せながら、見るともなく、監視カメラのボディーを見上げた。
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