1950の一瞬

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 男の体が不自然に揺れて、倒れていく。フロントガラスから男の姿が見えなくなってようやく、これは銃声なのだと気づいた。  私はぽかんとしてシートに沈みこんだまま、何が起きているのかと考えるのが精いっぱいだった。  まったく馬鹿げた行動である。次に撃たれるのは私かもしれないのに逃げることはせず、大切な友達である男を助けにいくこともできなかったのだ。  不気味に痩せた男は車内に残っていた私に気づくと、助手席のドアを開けて銃を向けた。 「金を出せば殺さないから、は、早く、金を、かねを」  男は撃たれたのだ、今度は私が殺されると気づき、怯えながら両手をあげると、痩せた男の手が眼前を通り過ぎていった。  骨に皮を張り付けたような細い腕にアザや注射の跡がいくつもあり、近くにいるだけで独特の甘ったるい匂いがする。その手が車内に置いてあった、バスケットボールのボロ財布を掴んだ。 「や、や、やった……殺したぞ。金も手に入れた!」  そして中身を確認せず財布をポケットにしまうと、男は雄叫びをあげながら走り去っていった。
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