1950の一瞬

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 数日前も男は同じことを言っていた。待ち合わせたバーはお祭りのように騒がしく、祝杯や喜びの声に満ちているというのに、男だけは違っていた。  溢れるほど酒を飲んでも会話にアルコール臭は混じらず、纏う空気はお祭りに合わない悲壮なもの。  男は、灼熱のアスファルトに置いても溶けない氷のような目をして、「デカい花火をあげて名前を刻んでやる」と犯罪計画を語った。  まるで、ろうそくが消えてしまう直前の激しい燃え方だった。男の語り口に儚さを感じとり、掴まなければ消えてしまうと思ったのだ。だから男の手を掴んで、離さなかった。その計画に私も混ぜてほしいと自ら飛び込んだのだ。  その悲壮感は姿を消し、今じゃすっかり陽気なものだ。私はその陽気さにあるものを思い出していた。 「まるでボニー&クライドだ」  私たちはギャングではないのだが、車に乗る犯罪者というワードから有名なギャングたちを連想した。その呟きを、会話に飢える暇なドライバーは聞き逃さない。大げさに肩をすくめて返答する。 「女役はお前か?」 「まさか。君だろう」 「こんなゴツい女がいてたまるか、勘弁してくれ」  やれやれ、とため息を吐いた後、男は続けた。 「それに撃たれて死ぬのは嫌なんだ」  強盗殺人を計画し銃まで用意した男とは思えない発言だった。見れば、男は悲しげな瞳をフロントガラスに向けている。
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