1950の一瞬

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「長旅のお供にぜひ語ってくれよ」  好奇心が疼いて話を続けるよう促すと、男は渋々と言った様子で「晴れた日には合わない話だ」と口を開いた。 「ドラッグ漬けの男がいる家に銃を置いてはいけない。一瞬で家族を壊すことができるからな。アルコールとドラッグに溺れた哀れな男が選んだのは、三発の銃弾を放つことだった」  片手をハンドルから放し、親指と人差し指で小さな銃を作る。それはフロントガラスに向けられ、バンと安っぽい効果音を添えて二回ほど跳ねた。 「一発は妻、二発目は娘に」 「父親が家族を撃ったのか、悲しい話だ。三発目の銃弾は?」  男は指で作ったピストルを、頭の横にぴたりと付ける。そしてピストルが跳ねた。 「息子に向けようとして目がさめた。愛する家族を殺した現実に絶望し――最後の銃弾は自分自身へ」  ピストルはなくなり、行き場をなくした男の手はひらひらと舞いながらハンドルへ戻っていく。 「こうして息子を残して、幸せな家族は消えてしまったとさ。めでたしめでたし」 「なるほど。だから君はドラッグにだけは手を出さない」 「俺が人生で嫌いなものは三つ。白人とドラッグ。それからマイアミだ」 「どうしてマイアミが?」 「親父にドラッグを売ったのがそこの出身だった」  私は男の肩を叩いた。 「じゃあ、メンフィスはやめだ――マイアミへ行こう」 「おいおい。俺を運転席に何日縛り付けておくつもりだ!」  「厄介な客を乗せてしまった!」と男が嘆く。しかし口元は笑みをこらえてぷるぷると震えていた。  この男はこういった突拍子もないことが好きだ。そうでなければ、目的地も決めずに強盗しようぜと提案しない。 「どうする、相棒」  私が聞くと、エンジンが唸り声をあげた。それから男が笑う。 「俺は南に行きたいって思っていたよ」
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