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「腹が減ったな」
「賛成だ。ホットドッグが食べたい」
同意すると、男はハンドルから片手を放してポケットを探った。出てきたのは男が愛用しているボロの財布だった。バスケットボールの絵が入っているのだが、手垢に塗れた上に糸もほつれている。それでも男はこの財布を手放そうとしなかった。
「ハハッ、これは愉快だ」
「何がおかしい?」
「これから強盗しようってヤツが、わざわざ金を使うなんておかしな話だ」
男は、そんなこともわからないのかと挑発するように、チッチッと舌を鳴らした。
「美味しいステーキが目の前にある。その前にハンバーガーを食べるのか? 空腹は最高のスパイス。犯罪だってそうさ、数ドルをケチって、最高のショーが失敗するぐらいなら俺は惜しまずホットドッグにドルを払うね」
「なるほど」
「買うものはホットドッグと……ありったけのコークだ」
男は楽しそうに瞳を細め、ハンドルを切った。
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