1950の一瞬

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 食料を仕入れて給油を終えると、車は再び走り出した。 「マイアミまでまだまだかかる。強盗計画の話でもして盛りあがろうか」  たばこを窓から投げ捨てた後、男が喋りはじめた。 「計画といっても簡単だけどな。マイアミいちの富豪を襲う。そうすれば殺人もできて金を手に入るわけだ」 「随分とふわふわした計画だ。この車に乗り込んだことを後悔しているよ」  嫌気たっぷりの言葉を返すも、男は動じなかった。 「なんとかなるさ」 「じゃあ聞こう。このふわふわマシュマロ計画が成功する確率は?」 「もちろん、百パーセントだ」  まったく馬鹿げた話だ。  強盗殺人計画なんて言いながら襲う場所も人も決まっていない。車が走り出した時は目的地さえ決まっていなかったぐらいだ。こんな強盗犯がいるだろうか。  ため息を吐く私と違い、男は呑気にしていた。驚くほど細部の練りこまれていない強盗計画が成功すると信じきった顔をしている。  強盗計画を詳細まで煮詰めたい気持ちはあったが、マイアミに着くのはまだかかる。焦らなくてもいいだろう、と私はシートに深くもたれかかった。 「金を手に入れたらどうする?」 「せっかくだから、滅多にできないことをしよう」 「たとえば?」  聞き返すと男は黙りこんだ。眉間にしわを寄せているところを見ると、滅多にできないこと言っておきながら、何も考えていなかったらしい。  私は男がしゃべるのを待った。どんなアメリカンドリームを語るのか、楽しみだったのだ。  たとえば、アメリカンフットボールのリーグを統合するとか。バスケットボールが好きな男のことだ、プロチームを買い取ってオーナーになると言いだすかもしれないし、メンフィスに豪邸を立てるかもしれない。  ところが、私の耳に飛び込んできたのは意外なものだった。
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