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「それでなくても黒人か白人かのオセロ・ゲームが激しいこの時代、白人様のスポーツへ黒人がきてみろ、白人様は怒り狂うだろうさ。さらにその黒人はドラッグに負けた父親を背負っている。野ウサギを猛獣の檻に放り込むようなもの、スキャンダラスな黒人じゃ時代は変えられない」
男が好きだったものは白人スポーツと呼ばれ、黒人選手は一人もいなかった。
初めて、純白に黒色を混ぜようとしていたのだ。だがその黒色の純度がよろしくない。黒が混ざるだけでも糾弾されるだろうに、それが汚れた黒であればなおさら的となる。愛好者たちは汚染を嘆き、黒を排除しようとするだろう。
「でも俺は受け入れたよ。これは神が俺に与えた試練。そうして夢をあきらめた後に――あの日がきた」
そして数日前の、男が強盗計画を打ち明けた時に繋がるのだ。あの日、バーがお祭り騒ぎになっていた理由を思い出して、呟く。
「初の、黒人選手が選ばれた日だった」
正解だ、と男は頷いた。
我々黒人たちにとって衝撃と喜びのニュースだった。隔てられた壁の崩壊、白人競技だったものに黒人が初めて選ばれたという報せだった。いつものバーに集まった仲間たちは喜び、騒ぎ、あちこちで祝杯を掲げていた。
でも、男だけは違っていたのだ。数日前と同じ香りを纏う悲壮感が、車中に充満する。
「俺がいるはずの場所だった。俺の方が背も高いし、フィジカルでは負けない。シュート成功率だって自信がある。でも選ばれたのは俺じゃなかった」
「選ばれた理由は、つまり過去か」
「あきらめたはずだったのに、ほんの一瞬で、押しとどめていた感情が爆発した」
あきらめたと言いながらも、日課のように体を鍛え、休みの日にはストリートでボールを追いかけていたことを私は知っている。
けれど――選ばれてしまったのだ。眩しいコートで栄光のライトを浴びるのは、同じ肌の色をした者。男と違ってクリーンな過去を持つ、綺麗な黒。
「一瞬だよ。夢を見るのも、壊されるのも、すべて」
今にも消えそうな掠れ声で呟いた後、男は何も言わなくなった。
マイアミへは長い距離がある。長い旅になるのだから、笑顔もあれば涙だってある。
運転席を見ないようにしてフロントガラスを睨みつけ、まもなくやってくる夜のことを考えるようにした。
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