それは愛ではない何か

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 俺たちが基準にしている法もそのために生まれたのかもしれない。  婚姻という制度もまた、子孫を確実に残していくためにある。  俺たちは、互いに一緒になるつもりはない。『生殖』をともなわずに繰り返す行為は、知性や理性と言った、俺も、薫も、もっとも優先したいと望むものの対極にある。  快楽に引き寄せられただけで、行われる。  俺は法律家であって、宗教家ではない。己に勝つことを、追求する必要はないのだ。 「何を考えてるの?」 「俺と、お前のことかな」 「変な言い方」  薫が俺の頬に触れた。指先が冷たかった。俺は、手の平を重ねた。 「お前は、最後のセックスについて考えたことあるか?」  あいつからされた質問をそのまま薫に投げかけてみる。 「あるわよ」  意外な答えが返ってきた。 「いつも終わった後は、最後にしようって思うもの」  毎回うんざりされていたのなら、さすがに傷つく。  俺の方は、満足している。もちろん、薫を初めて抱いたときほどの昂ぶりはないが、柔らかでなめらかな手触りも、甘い吐息も。誘われれば断れないのは、何度でも味わいたいからだ。     
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