それは愛ではない何か

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 薫の部屋は広いだけで殺風景だ。大阪のど真ん中にすんで、華やかな街を見下ろしている。羨まれる生活の実情はほとんどの人間にとって寂しいものだ。しかし、薫には悲壮感はない。  恵まれた容姿と頭脳と性格的な強さ。人は、優れすぎない方が、良いのかもしれない。  薫は寛容ではない。誰もが薫のレベルで物事をすすめられるはずがない。だが、いつまでも諦めない。出来ないことを求め続けられる側の苦痛を理解できない。努力が足りないと責める。  見下しながら手玉にとれば楽なのに、しない。  仕事上はある程度仕方がない。しかし、男女関係は『対等』であればうまく行くとは限らない。  薫は俺のことを認めてくれているし、俺も薫のことを認めている。  だから、俺は薫との結婚を真剣に望んだ。結婚はするものだと考えていた。結婚をすればいずれは子供をと、ごく一般的な感覚も俺は持ち合わせていた。  今はわかる。あの時は、タイミングが早すぎた。社会に出て間もない将来有望な弁護士を、家庭に閉じ込めようなどとは考えていなかったが、確実に制限はできただろう。  今の関係は、ある意味、無駄のない理想的な形だ。     
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