それは愛ではない何か

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 あいつの最後の数ヶ月を知らなければ、何の疑問も持たずにいられた。  俺の残りの人生、薫の残りの人生、まだ終わりを考えるほどの年齢ではないが俺は考えてしまう。  俺達は、お互い自由なようでいて縛り合っている。薫がすぐに男を捨てるのも、俺が女を探さないのも、結局楽な道が残っているからだ。 「コーヒーでも飲む?」  訊かれて頷いた。  頼まれれば、俺がいれることもできる。勝手知ったる他人の家といえるのはここだけだ。  上着を脱いで、かけた。  応接セットの定位置に座る。  あいつのことを無関係の人間に話すのは初めてだ。しばらく実家にも帰っていないので、親にも話していない。  事務所の人間には、遠方の仕事を引き受けて、長期で出張していたことになっている。  どこから話せばいいだろうか。  あいつの件は、終わったことではない。これからも、継続していくことだ。  薫と、仕事で何か協力しあうことは、ないだろう。  今の関係を終わらせれば、ほとんど、会わなくなる。   どこまで話せばいいのかも、はかりかねる。  薫がコーヒーを持ってきた。俺の方だけ、ミルクも砂糖もたっぷり入れてあるはずだ。  いつもは隣にくるのに、今日は、正面に座った。
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