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―――――雪は、俺をもう食べたくない?
違う、俺はあなたを傷つけたくない。
―――――違うか、雪は優しいもの。そう、雪は俺が好きじゃないんだ。
違う!好きじゃなかったら、他人の肌に口をつけるなんてこと俺はできない。
―――――それは、俺が初めて出会った『ケーキ』だからだ。『ケーキ』と『フォーク』の間じゃ、きっと当たり前の接触だ。
それは……。
―――――ああ、ごめん、そういえばさっきのは言い方が不味かった。雪は、俺を愛してないでしょ?
………!
―――――やっぱり、気づいてなかった。でもまあ、言っても分からないほどバカじゃなくてよかった。
―――――これは無欲なお前に対する、俺からの最期のワガママだ。
―――――なあ、俺のこと、もっと欲しがってよ
どっ、ぶつり。
真っ白なニット、突き刺さる包丁、染みて広がる鮮やかな血。
普通の奴ならここで彼を止めることもできたのだろう。だが俺にそれはできなかった。
まあ二人が普通じゃないからこうなったのだが。
激しい痛みに眉を寄せ、脂汗を浮かせている。それでも包丁からは手を離さずに、ゆっくりと横に包丁を動かして、刺さったままの包丁をクイッと上にひっぱる。
その腹部からは血が零れ落ちている。だらだら、というよりはぼとぼとと、床に落ちていく。
もしかしたら血どころじゃなく、内臓の膜やらも一緒に零れていたのかもしれない。
鼻に届くのはカラメルの濃厚でほろ苦く甘い、あまぁい香り。いつも嗅いでいる香りよりもずっとずっと濃くて深くて、美味しそう。
舌なめずりをしてしまった俺をみたあなたの口角は上がっていた。
「いただきます!」
久しく言っていない気がするこの言葉。
いつか小さい頃、美味しいご飯を家族で食べていた頃の自分の無邪気な声が聞こえた気がした。
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