文句は受け付けません

2/10
359人が本棚に入れています
本棚に追加
/144ページ
「きゃあ」 叫び声の方に視線を向けると、同じ総務の棚橋(たなはし)さんがお盆を持ったまま呆然とある人物を見つめていた。 床には書類とプラスチックのコーヒーカップが散乱し、彼女が見つめる人物の白いシャツとネクタイには点々とコーヒーのシミがついている。 あれは確か営業部の高屋敷正宗(たかやしきまさむね)だ。社長の子息で、入社4年目にも関わらずわが社の営業トップでもある。 ━━よりにもよって彼にコーヒーをかけるなんて。 棚橋さんが出てきた会議室では、つい先程まで部長会議が行われていた。その時に出したコーヒーを片付けに来た彼女が廊下に出た際、運悪く高屋敷さんとぶつかってしまったんだろう。 そう言えば、彼は今日………。 棚橋さん、ぼんやりしている場合じゃないよ。 俺は足早に二人に近づくと、彼女に目配せをしてから高屋敷さんに向き直った。 「私は彼女と同じ総務部の桜庭(さくらば)と言います。本当に申し訳ありませんでした。失礼ですが、本日は16時から大切な商談があるのでは?」 「ああ、なぜそれを?」 「私が会議室を予約したので。高屋敷さん、商談までに後1時間しかありません。着替えはお持ちですか?」 「いや、持ってない」 「では、私に付いてきてください。棚橋さん、書類はまとめて私のデスクにお願いします。後は任せて」 「桜庭君、ありがとう」 「いえ。高屋敷さん、こちらです」
/144ページ

最初のコメントを投稿しよう!