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「きゃあ」
叫び声の方に視線を向けると、同じ総務の棚橋さんがお盆を持ったまま呆然とある人物を見つめていた。
床には書類とプラスチックのコーヒーカップが散乱し、彼女が見つめる人物の白いシャツとネクタイには点々とコーヒーのシミがついている。
あれは確か営業部の高屋敷正宗だ。社長の子息で、入社4年目にも関わらずわが社の営業トップでもある。
━━よりにもよって彼にコーヒーをかけるなんて。
棚橋さんが出てきた会議室では、つい先程まで部長会議が行われていた。その時に出したコーヒーを片付けに来た彼女が廊下に出た際、運悪く高屋敷さんとぶつかってしまったんだろう。
そう言えば、彼は今日………。
棚橋さん、ぼんやりしている場合じゃないよ。
俺は足早に二人に近づくと、彼女に目配せをしてから高屋敷さんに向き直った。
「私は彼女と同じ総務部の桜庭と言います。本当に申し訳ありませんでした。失礼ですが、本日は16時から大切な商談があるのでは?」
「ああ、なぜそれを?」
「私が会議室を予約したので。高屋敷さん、商談までに後1時間しかありません。着替えはお持ちですか?」
「いや、持ってない」
「では、私に付いてきてください。棚橋さん、書類はまとめて私のデスクにお願いします。後は任せて」
「桜庭君、ありがとう」
「いえ。高屋敷さん、こちらです」
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