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「あのね、何でも言っていいんだよ。なんだっていい、不満に思っていること、不安なこと、疑問に思ったこと。ううん、言ってほしいんだ僕が。小さい頃の君はどんな子で、どんなふうに育ってきて、どんな人生を歩んできたのか。君は、君の家族について話すことがあまりないだろう? 僕も、聞いちゃいけないんだと思って聞かずにいた。けど……これは完全に僕のワガママなんだけど、聞きたいと思ったんだ。君のことは何でも。それは別に今じゃなくてもいい、後でもいい。けど、君が話してもいいと思えたら、僕に話してほしいんだ。別に隠し事は0にしようだとか、そういうんじゃなくて。こう、ツライと思っていることを、少しでも僕に分けてくれたら、それだけで随分と君も楽になるんじゃないかなって。こういう考えは、どうなんだろう。けど、僕はそう思うんだ。僕も君の気になることはなるだけ聞きたいと思っているんだ、どうだろう、君は、どう思う?」
わからない、わからなかった。
だってそれは普通なの? そうやって甘えることは普通なの?
どんなにわかったつもりでいたって、所詮人の考えていることなんてわからないのに。
口ではそう言っていても、内心はどう思っているかなんて。
わからないのに。
「混乱してる?」
「……してる。だって、そんなこと言われた時の対処法なんて、私……知らない」
「対処法?」
「ええ、だって。私が普通だと思っていることは、他の人から見たら、普通じゃなかった。普通じゃない、変だよ。そう言って笑われた。だったら、その普通を知りたかった。普通になりたかった」
「どうして?」
「だって、笑われたくないから」
「それって、普通のことなんじゃない?」
「……え?」
彼が何を言っているのかわからなかった。笑われたくないことが、普通。
「意図しないところで笑われたら、誰だって恥ずかしいと、嫌だと思うんじゃないかな。それってごく一般的なことだと僕は思う」
「そう……なの?」
「少なくとも、僕はそう思う」
「あなたが思うことは、一般的なこと? 本当に? 信じていいの?」
「……ええと」
「あ……ごめん、なさい」
「いいよ、謝らなくて」
「ごめんなさい、言い過ぎたわ。ごめんなさい、許して。嫌わないで……もうこれ以上誰も」
私の名前を一つ呼んだ彼は、優しく私を抱き寄せた。
言葉は何もなかったけれど、私は赦された気がしていた。
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