1

1/6

0人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ

1

 私はおかしいらしい。  家族が幸せそうに笑い合っているCMを見るだけで、幸せそうだなと涙が出そうになってしまって、それを見られると何でたかがCMで泣きそうになっているのと笑われる。  優しくしてほしいけれど、そんなことを頼むのは忍びないと我慢したら、なんで我慢するんだと怒られてしまう。  自分の意見を言ったらもっと場が乱れると思って言わないでいたら、なんで何も言わないんだと不満そうな顔をされる。  わからなかった、私には私以外の人たちが考えていることが。  どうやったら怒られないか、どうしていたら好きでい続けてもらえるのか。  人の感情はすぐに変わってしまう。それは私の家族を見ていたらすぐにわかることだった。  お母さんはすぐに人を好きになる人。優しくされたり、笑顔を見せてもらったり、少しでもプラスの感情を向けられたら、すぐに好きになる。  だから、うちはお父さんが今までに3人いた。  一人目は、普段は優しくてニコニコと笑顔を絶やさない人。  でも、少しでも自分の気に入らないことがあったら、人や物に当たる人だった。  家では常に気を使って、怒らせないように、気に入らないことをしないように、頑張っていたつもりだった。  でもだめだった。一人目のお父さんは、私のことが嫌いらしかった。  学校から帰ってきて、玄関を普通にがちゃ、と開けたつもりだったのに実はそうではなかったらしくて、家にいたお父さんにうるさい、と怒鳴られてしまった。  音を立てたらいけないんだと、今度はそうっと家に入ったら、無音で入ってくるな気色悪いと怒られた。  何をやってもだめなら、私のことが嫌いなんだと思った。でも私はお父さんのことは嫌いになれなかった。だって、私にとってはお父さんはお父さんだったから。  こんな日々がいつまで続くんだろうと思っていた頃、お母さんにお父さんはもう帰ってこないと言われた。  寂しかったけど、不思議と泣きはしなかった。これからはお母さんと二人きりなんだ、だったらもっと私のことを見てもらえるのかと思ったから。  けど1ヶ月もしないうちに、お母さんはまた新しい男の人を家に連れてきた。いずれお父さんになる人だよと教えてもらった。  だから私は、今度こそは嫌われないように頑張ろうと思った。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加