雨が降っている

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雨が降っている

 その絵をはじめて見たのは大学3年生の春だった。急に雨が降って、止みそうもないから駅まで走ろうかとも思ったけど、なんとなく近くの喫茶店に入った。いらっしゃいませ、と声をかけられてからコーヒー一杯で千円するタイプの店だったらどうしよ、と不安になったがそんなことはなかった。窓際のソファ席に座ってブレンドコーヒーを頼む。店は空いていて、俺のほかに女性一人しかいない。ジャズが流れていて、後ろでざあざあと雨音が聞こえる。土砂降りだ。水を口にしいしいSNSを確認する。昼下がりの微妙な時間で誰も呟かない。窓に目をやると黄色いカッパの少年が虹色の傘を剣よろしく振り回しながら歩いていた。こちらブレンドコーヒーになります、とウエイトレス。  コーヒーはフルーツみたいな匂いがしてなんだかぼやけた味がした。目のやり場を探していると壁に額縁がぶら下げられているのに気が付いた。シンプルな木の額だ。収められている絵もシンプルで、地面を打つ雨の絵だった。アスファルトは黒く反射して雨粒が打った後に王冠のような波を立てている。なぜだかそれをずっと見ていた。     
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