雨が降っている

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だいたい2週間に1回くらいでその喫茶店に通った。ちょうどそれくらいで絵も増えていって壁が埋まっていくのが楽しかった。今思えばおそろしいスピードで描きあげているものだ。どれも雨にまつわるものだった。  集合住宅に降る雨。雨降りの遊園地の巨大観覧車。びしょ濡れの郵便ポスト。水たまりと吸殻。頭が傘の男。コーヒーショップの窓から見た雨(この店がモデルかもしれない)。見上げた電信柱と晴れ間の雨。ぞろりと並んで壁は無くなっていくのに不思議と世界が広くなっていくようで心地よかった。  今も忘れない。  就職と同時に引っ越し中央線は使わなくなった。わざわざ行こうとも思わなかった。雨が降るたびにあの絵のことを考えたが見に行こうとはしなかった。今日は風がぬるい。濡れたアスファルトのような匂いがする。朝日が目に刺さった。  今日は阿佐ヶ谷で飲むぞ、と上司の一声で阿佐ヶ谷に来た。行きつけのスナックがあるらしい。上司と俺と同僚二人で来たもののかくいう上司が奥さんからの電話で早々に帰ってしまった。俺含む三人はそのとき飲んでたグラスを開けて満場一致で解散した。22時半。喫茶店が開いている時間ではないがなんとなく足が向いた。  結局、そこは空きテナントになっていた。まあコーヒーまずかったもんなあ。雰囲気はよかったのになあ。ぼうっとした頭で考えながらへへっと独りで笑った。雨が降っている。酒が回った体には冷たく感じた。
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